鉱石ラジオ


   
小さい頃、ラジオを作ったことがあった。
組み立てキットを説明書に沿って組み立てるだけなのだけれど、これがなかなかうまくいかない。
コイルは手でぐるぐる巻いたものだし、アンテナはむき出しのハリガネだし、
こんなもので本当にラジオが聞けるのかと思った。
けれども、どうにか完成していざスイッチを入れてみると、ノイズに混じって、
陽気な話し声が聞こえてきた。
しかも、日本語ではない。
ひょっとして異国の電波を捉えたのかもと、当時の私はたいそうわくわくしたけれど、
「NHKの基礎英語だね」 
という母の言葉に、夢はあえなく打ち砕かれた。
  
ラジオと真剣に向き合ったのは、後にも先にもこれきりだろう。
コイルはどういう役割を果たしているのか。
どういう仕組みで周波数を合わせているのか。
空を飛ぶ電波は音がしないのに、どうやって音楽や言葉を運ぶのだろうか。
ラジオのことなど何も知らなくても、ラジオを聴くことは出来る。
けれど、それはあまりにもつまらないことに思えた。
  
そのラジオは、今は押入れの中でほかのガラクタとともに眠っている。
音は悪いし、AMしか聞けないので、ハッキリいって使えない。
壊れたそのラジオは、修理する気も起きないほどに、無残な姿をしていた。
けれども。
私は、ラジオを作った頃と何一つ変わらない。
何一つ変わらずに、あの風の音にも似たノイズの向こうに、途方もない夢を見ている。


  
  
<了>

「鉱石ラジオ」
(C) 2001 Kurage (Sasaki Kaigetsu)

  
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