百武彗星とヘール・ボップ彗星の話

   
 2013年、ふたつの大きな彗星が地球に接近し、ニュースになった。僕はというと、結局どちらもこの目で見ることはなく終わってしまった。それで、今回のことはまあいいや、と諦めて、過去に見た彗星の姿を思い出すことにした。
  
 僕が過去に肉眼で見た彗星はふたつある。
 ひとつめは、1996年の百武彗星。もうひとつは、1997年のヘール・ボップ彗星だ。
 どちらの彗星も、あるときから空に現れ、夕暮れの空に美しい尾を描き、僕はそれを毎日眺めて過ごした。そうして、何日かすると見えなくなった。また遠いところに去っていったのだろう。
 百武彗星の公転軌道周期、つまり次に地球のそばを通るまでの時間は、約11万年くらいだという。当時の僕は、その長い時間をどう理解すればいいのか分からなかった。今でもよく分からない。
 百武彗星を発見したのは、アマチュア天文家の百武裕司さんという人だが、彼は半世紀ほどでその生涯を閉じてしまった。人の儚さなんて今さらここで語るつもりはない。それはそれでいい。僕らは一瞬を生き、この星からどこにも行けず、けれどもそれぞれに、それなりに生きて、たまにはこういう、遠方からの素敵な客を迎えることもある。
 百武裕司さんが発見した発見したふたつの彗星と、そうした彼の業績を称えて名付けられた小惑星「百武」は、今もこの宇宙のどこかに存在している。たぶん、僕や君や多くの人間、あるいは全ての人間が死んでいったあとも。けれども、星に名前を与え、その名前を呼ぶのは、僕ら人間だけだ。
  
  
<了>

ペーパー「エウロパの海vol.2」より
(C) 2013 Kurage (Sasaki Kaigetsu)

  
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