考察

   
   
   
   
   
   
   
そのけものは、夜の底に棲むという。
深海にも似た、暗く冷たい場所にいる。
そこで、けものは気ままに暮らしている。
不自由はない。
たまに、明るいうちに目を覚ますこともある。
そういうときは、こっそりと、明るい場所を歩き回る。
大抵の人間には、けものの姿は見えない。
けものは自由に歩き回る。
好きなように跳ね回り、飛び回る。
誰にも見えない。
誰にも見えない。
しかしながら。
ときおり、ごくごく稀に、けものが見える者もいる。
その異形を、人は見ない振りをしたり、
退治しようとしたり、檻に閉じ込めようとしたりする。
けものは叫ぶが、叫びは叫びであり、
そこにいかなる希望や期待や要求が含まれていようとも、
相手に受け入れられることはない。
だからけものは、撲たれた分だけ噛み付き、
斬りつけられた分だけ食い千切る。
 
そうして、けものは夜の底に帰る。
やはり己は夜に棲まうべきなのだろう。
けものは、そう理解する。

けものは、言葉を理解する。
だが、人はけものの言葉が分からない。
異形の生き物の、奇妙な鳴き声を、人は気味悪がって耳を塞ぐ。
けものはそれを理解し、
いつしか明るい場所では鳴かなくなっていた。
夜の底で鳴き叫べば良いのだと、けものは思っていた。

同じように夜に棲むものが、ときおり近くを行き過ぎていく。
けものがそれに声をかけることはない。
ただ、静かに見送る。
気配が完全に去るまで、そちらを凝視する。
そうして、また夜の底に静寂が訪れる。
けものはまた、ひとり言葉を紡ぐ。
  
  
<了>

創作についての考察 2015.06
(C) 2015 Kurage (Sasaki Kaigetsu)

  
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