バッハ ゴルトベルク変奏曲 ト長調BWV.988(1742)

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 この曲は、正しくは「二段鍵盤付きクラヴィチェンバロのための
アリアと種々の変奏」といいます。よく知られているように、恩人
であるフォン・カイザーリンク伯爵の専属チェンバロ奏者ゴルトベ
ルク(当時バッハに弟子入りしていました)が弾くために作曲され
たために、「ゴルトベルク変奏曲」と呼ばれています。
 作曲(出版)年の1742年は、バッハの晩年と言ってもよいと
思いますが、このころにいたるまで、バッハはほとんど変奏曲を書
いていません。変奏曲がさかんに作曲されるようになるのは、バッ
ハ以降の、いわゆる前古典派時代以後のことといってよいと思いま
す。
 珍しいバッハの変奏曲ですが、3番目、6番目など、3の倍数の
曲はすべてカノンになっているなど、バッハらしい凝り方を示して
います。また主題のアリアは、もともと「アンナ・マグダレーナの
ための音楽帳」(1725)に収められているものですが、そもそ
もバッハオリジナルかどうかは分かっていません。しかし、この美
しさはバッハの作品中随一と言ってもよいのではないか、と個人的
には思っています。
 さて、この変奏曲の構成は次のようになっています。

 主題(アリア)
 第1変奏  2声のトッカータ風、3/4拍子
 第2変奏  3声、上部の2声は主題のよう、2/4拍子
 第3変奏  3声で同音の厳格なカノン、12/8拍子
 第4変奏  4声、低声部に主題のバスがはっきりと聞こえる、3/8拍子
 第5変奏  高度な技巧を要するトッカータ、3/4拍子
 第6変奏  2度のカノン、3/8拍子
 第7変奏  シチリアーノ舞曲風、6/8拍子
 第8変奏  活発なトッカータ風、3/4拍子
 第9変奏  3西部のうち上部2声のみが3度のカノン、4/4拍子
 第10変奏 4声部のフゲッタ、主題はアリアのバス、2/2拍子
 第11変奏 トッカータ風、最低音に主題のバス進行がある、12/16拍子
 第12変奏 展開カノンの手法を用いたカノン、カノンは上部3声で、バスを加えて4声部、3/4拍子
 第13変奏 叙情的な響きのアダージョ、3/4拍子
 第14変奏 大胆な音程跳躍を持つトッカータ風、3/4拍子
 第15変奏 第12変奏と同様上2声部の転回カノン(5度)、2/4拍子
 第16変奏 後半の開始曲で、フランス風序曲の形をとる、2/2〜3/8拍子
 第17変奏 2声のトッカータ風、3/4拍子
 第18変奏 3声のうち上2声部で転回する6度のカノン、2/2拍子
 第19変奏 3声、メヌエット風、3/8拍子
 第20変奏 技巧的なトッカータ風、3/4拍子
 第21変奏 半小節遅れの7度のカノン、4/4拍子
 第22変奏 低声部の主題の上で他の3声部が古式な対位法による書法を見せる、フーガ風、2/2拍子
 第23変奏 2段鍵盤用の模倣対位法による曲、インヴェンション的な面もある、3/4拍子
 第24変奏 8度のカノン、9/8拍子
 第25変奏 半音階的な書法が目立つゆったりとした曲で緊張感がある、3/4拍子
 第26変奏 18/16拍子の上声と3/4拍子の下声が対立しながら進む前奏曲風
 第27変奏 2声部の9度のカノン、6/8拍子
 第28変奏 トリルを多用した技巧的な曲、3/4拍子
 第29変奏 3和音のトリルを多用、3/4拍子
 第30変奏 当時よく知られた民謡を2曲結合している、4/4拍子
 主題(アリア)

 上記の表現には、あまり自信がありません。詳しい方のご教示をお
願いいたします。

 長い曲なのですが、聴き始めるとあっと言う間に時間が過ぎてしま
います。アリアの美しさもさることながら、30曲の変奏の一つ一つ
がそれぞれ魅力的で、しかも多彩であるためだと思います。

 この曲の演奏には、他のバッハの曲と同様に使用楽器問題が存在し
ます。つまりチェンバロを使うか、ピアノを使うか、ということです
が、さらにチェンバロには現代のものと歴史的なものがあります。ま
た、弦楽合奏版などもあります。ということで、このことを論じると
きりがありませんし、私にはその力もありません。ピアノによる良い
演奏を聴けばピアノが良いと思い、チェンバロの名演を聞けば、チェ
ンバロに限る、などと思って揣摩します。

 この曲の録音は、次のものを所有しています。

1 グレン・グールド(ピアノ) CBSソニー 30DC717 1981年録音
2 ヘルムート・ヴァルヒャ(アンマーチェンバロ) エンジェル TOCE-7232 1961年ハンブルク録音
3 キース・ジャレット(チェンバロ) ECM POCC-1504 1989年八ヶ岳高原音楽堂録音
4 曽根麻矢子(チェンバロ) エラート WPCS-10152 1998年パリ録音
5 ニュー・ヨーロピアン・ストリングス(弦楽合奏) ノンサッチ WPCS-21209 1993年ハンブルク録音
6 高橋悠治(ピアノ) エイベックス AVCL-25026 2004年笠懸野文化ホールPAL録音

 チェンバロによるものが3枚、ピアノが2枚、かわりだね1枚なの
ですが、どれか1枚を選ぶ、ということになれば、1のグールド盤で
す。この録音は、他のものよりもテンポが圧倒的に遅く、それだけ演
奏者の思い入れが強いことが聴き取れます。しかし、高橋悠治の演奏
にも捨てがたいものがあります。流れるような演奏でしかもくっきり
とした切れ味のよさを感じます。チェンバロによるものもそれぞれ個
性的ですが、アリアの美しさに引かれれて、キース・ジャレットの演
奏をよく聞きます。