モーツァルト レクイエム ニ短調 1791年

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 この曲を完成させることなくモーツァルトが世を去ったのは、何とも残念なことです。この辺りのことでは、
例の映画「アマデウス」でも描かれていた「灰色の男」のエピソードが有名です。
 未完だったために、多くの補筆版が出ています。よく演奏されるのは、モーツァルトの弟子だったジェスマ
イヤーによるもので、これが今のところ事実上の標準となっています。これに対し、ジェスマイヤー版の明ら
かなミスや非モーツァルト的な書法を取り除き、モーツァルトの他の作品を手本にして、新たなオーケストラ
レーションを施したとされるのが「バイヤー版(1975)」です。また、このバイヤー版の登場に刺激され
たのか、その後次々と補筆(改作?)版が出てきました。モーンダー版やレヴィン版などがそうですが、これ
らについての詳しいことはまた後日ということにします。いずれにしても、バイヤー版まではいいが、そのあ
とに出てきたものには、「ラクリモサ」にアーメン・フーガがあったりして若干違和感があります。私の先入
観に過ぎないのかもしれませんが。
 ところで、「クラシック ディスク・ファイル(1995年、音楽之友社)」というMOOK(雑誌と書籍
の中間)に、面白い記事が載っていました。それは「ラクリモサ」の最後の「アーメン」の部分にどれだけ時
間をかけているか、というものです。その長短によって、指揮者の信仰心の深さも分かるのではないか、とい
う、まあある程度は一種のネタ記事なのですが、確かにこの部分はレクイエム全体のクライマックスとも言え
るところで、ここを聴けばある程度は指揮者の姿勢が分かるのかもしれません。

 この曲の録音は、次の5種類を所有しています。

    1 マリナー/アカデミー・オヴ・セント・マーチン・イン・ザ・フィールズ 
      ロンドンKCC 6268 1977年ロンドン録音(バイヤー版)

    2 サー・コーリン・デイヴィス/BBC交響楽団
      フィリップス PHCP-10147 1967年ロンドン録音

    3 マリナー/アカデミー・オヴ・セント・マーチン・イン・ザ・フィールズ
      フィリップス PHCP-1713 1990年ロンドン録音

    4 ミシェル・コルボ/リスボン・グルペンキアン財団管弦楽団
      エラート WPCS-4779/80 1975年録音

    5 バーンスタイン/バイエルン放送交響楽団
      DG 427 353-2 1988年ディーセン録音(ライヴ)

 以上のうち、私のお勧めは、4のコルボ盤です。これは、前記の記事にもありましたが、5のバーンスタイ
ン版とともに、「アーメン」に25秒前後(他は14〜5秒ぐらい)かけている演奏です。それが天国(行っ
たことはありませんが)的な響きを持って、すーっと消えていくような感じです。バーンスタインの方は、息
も絶え絶えになって必死に伸ばしているという感じで、これはこれで凄絶な得難い演奏だと思います。