セレナード第13番ト長調K.525「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」(1787)

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 モーツァルトの時代には、様々な機会にあわせて音楽を演奏するこ
とがありました。現代における再生装置と同じ役割を本物の演奏家が
担っていたわけです。ディヴェルティメントとか、カッサシオン、あ
るいはセレナーでなどはそうした目的のために作曲された音楽で、機
会音楽などと呼ばれます。これらの中でも、特にセレナーデは、夕方
や夜に野外で演奏されたものを指します。
 この曲は、1787年の作ですが、どんな機会のためなに作曲され
たのかは分かっていません。ちなみに、この年の4月に、モーツァル
トの父レオポルトが死去しています。精神的に父に依存する部分が大
きかった(であろう)モーツァルトにとっては、大きな打撃だったと
思います。そのためか、この年に書かれた作品は、ほとんど例外なく
悲劇的な感情をたたえたものになっています。ピアノのためのロンド
イ短調kv511や弦楽五重奏曲ハ長調kv515、同じくト短調kv516 などが
そうです。また、ドン・ジョヴァンニも喜劇の殻を被ってはいますが、
誰でも知っているとおり、極めて深刻な内容を持っています。
 こんな中で、この曲のみは明るさと喜びに満ちています。モーツァ
ルトの身辺に起こった悲劇の影さえも見えず、優雅で端整な響きに満
ちています。不思議としか言いようがありません。4楽章構成ですが、
モーツァルト自信がかいた自作カタログの書き込みによって、元来は
5楽章まであったことが知られています。その失われた楽章は、どん
なものだったか、またどうして失われたか、全く分かっていません。

	第1楽章:アレグロ(ソナタ形式) 
	第2楽章:ロマンツェ(三部形式) 
	第3楽章:メヌエットとトリオ 
	第4楽章:フィナーレ(ロンド形式)

 先述のカタログによれば、「メヌエットとトリオ」がもうひとつ存
在したようです。弦楽合奏の曲ですが、場合によっては、弦楽四重奏
などの小さな編成で演奏されることもあります。「機会音楽」ならで
はのことでしょう。

 この曲の録音は、次のものを所有しています。

1 コレギウム・アウレウム合奏団(LP) ハルモニア・ムンディ ULX-3180-H
  録音年月日記載なし 

2 イ・ムジチ合奏団 フィリップス PHCP-3135
  1982年7月25日〜8月2日 スイス録音

3 小澤征爾/サイトウ・キネン・オーケストラ フィリップス PHCP-21009
  1992年9月9日〜10日 岡谷市カノラ・ホール

4 コレギウム・アウレウム合奏団 ハルモニア・ムンディ BVCD-38043
  キルヒハイム フッガー城糸杉の間 1974年録音
    ※1と同じ録音と思われますが、1に録音年月日の記載がないため不確実です。

 どれも甲乙つけがたい演奏ですが、私の好みは1もしくは4のコレギ
ウム・アウレウム盤です。特に古楽器マニアというわけではないのです
が、石造りの古城の大広間での収録ということもあって、非常に豊かな
響きを聴くことができます。