ベートーヴェン 交響曲第9番ニ短調 作品125


HOME    My Favoritesへ    ジャンル別作品一覧へ    編年式作品一覧へ


0 概要
 編成は、ソプラノ、アルト、テノール、バス(またはバリトン)の独唱と、混成四部の合唱、管弦楽です。管弦
楽には、トライアングルとシンバルを含みます。正式名称は、交響曲第9番ニ短調「合唱付」作品125「シラー
の詩『歓喜頌歌』による終末合唱付交響曲」といいます(長い!)。作曲年は1822〜24年ですが、後述のよ
うに、かなり若い時から着想していたようです。初演は1824年、ウィーンのケルントナートール劇場です。ま
た、当時のプロイセン王フリードリッヒ=ヴィルヘルム3世に献呈されています。
 ベートーヴェンが、この曲の最初の着想(シラーの詩を使うこと)を得たのは、1793年のことのようです。
ベートーヴェンの知人からシラー夫人にあてた手紙にその事が書いてあるそうです。完成が1824年ですから、
30年以上も費やしたことになります。もちろんかかりきりだったわけではありませんが、青年時代の着想をずっ
と持ち続けて、晩年になってやっと完成させる、というのは、考えてみればすごいことです。

1 第1楽章
 アレグロ・マ・ノン・トロッポ、ウン・ポコ・マエストーソ ニ短調 4分の2拍子 ソナタ形式。
 拡大されたソナタ形式で、提示部の反復はありませんが、再現部とコーダがかなり大規模なものになっています。
 冒頭はホルンと弦楽器のトレモロによるイ音とホ音の空虚5度の和音(3和音の真ん中が抜けている和音)が鳴
り響く中、同じ2音を用いた主題の断片が浮かび上がります。極めて印象的な始まりですが、この空虚5度の和音
は、作曲の教科書では禁じ手になっています。それは長3和音か短3和音か決められない(つまり、鯛性が分から
ない)、などの理由によるらしいのですが、その割りにはモーツァルトなどはよく使っています。さて、いずれに
しろこの効果で極めて神秘的で深みのある出だしになっていると思います。この響きの影から、主題が少しずつ姿
を現す様子は、まるで霧の中から巨大な構築物の姿がかいま見えるようで、これから始まる壮大なドラマを予見さ
せるもとに思われます。

2 第2楽章
 モルト・ヴィヴァーチェ ニ短調 4分の3拍子。
 スケルツォという指定はありませんが、この楽章は性格的にまぎれもなくスケルツォです。したがって全体とし
ては三部形式の構成になっていますが、主部はそれ自体ソナタ形式になっています。結構凝ったつくりであると言
えましょう。冒頭の付点リズムを含む音型が第1主題で、このリズムはこの楽章全体を支配しているような感じで
す。中間部(トリオ)は、歌うような(歌謡的な)旋律を持ち、明るくのびやかな雰囲気です。

3 第3楽章
 アダージョ・モルト・エ・カンタービレ 変ロ長調 4分の4拍子、アンダンテ・モデラート ニ長調 4分の
3拍子。
 アダージョ(A)とアンダンテ(B)の二つの主題を持つ自由な変奏曲形式です。ロンドと変奏曲が融合したと
言ってもよいかもしれません。図式的に書くと、次のようになります。
    A−B−A’−B’−A”−コーダ
 この楽章は、ベートーヴェンの書いた緩徐楽章の中でも最も美しいものと言ってよいと思います。特に、私はB
の部分が最高だと思っています。コーダの前に、夢からの覚醒を促すようなファンファーレが聴かれます。

4 第4楽章
 プレスト ニ短調 4分の3拍子で始まりますが、この楽章は構成が大規模で、テンポも調性も複雑に変化しま
す。全体は、9つの部分に分けることが出来ます。言わば9部構成のカンタータのようになっています。

(1) 不協和音(ニ短調の7つの音を全部一緒に鳴らします)によって序奏が始まります。1〜3楽章の主題が順次
現れますが、チェロとコントラバスのレシタティーフによって否定されます。何と言うか、非常にドラマティック
な構成だと思います。このレシタティーフには、もちろん言葉はないのですが、のちに出てくるバリトン・ソロに
よる、「おお、友よこんな音ではない(O Freude,nicht diese Töne! )」とほぼ同じ旋律を使っています。三
つの楽章のテーマを否定したところで曲はいったん休止します。フルトヴェングラー/バイロイト盤では非常に長
く休止しているように感じられます。

(2) 有名な合唱主題が登場します。この旋律は、楽器を変えながら(増やしながら),4回繰り返されます。はじ
めはチェロとコントラ・バスのユニゾンで、低く地の底から湧き上がるように、2度目はビオラに主旋律が移り、
ファゴットによるエコーが美しく響きます。3度目はヴァイオリンによって流麗に繰り返され、4度目がフルオー
ケストラになりますが、主旋律を演奏するのは、トランペットなので、非常に豪華な響きになります。

(3) ここで初めて声が登場します。第1の部分とほぼ同じなのですが、今度ははっきりと言葉で1〜3楽章を否定
します。バリトン・ソロで、「おお、友よこんな音ではない(O Freude,nicht diese Töne! )」というわけで
す。この部分の終わりは、"und freudenvollere"という歌詞なのですが、私の持っている録音のうち、フリッチャ
イ盤のフィッシャー=ディスカウだけは、途中で息継ぎをせずに歌っています。余談でした。

(4) 合唱隊の"Freude! "という呼びかけに答えるようにして、バリトン・ソロがシラーの"An der Freude "の第1
節と第2節を歌い、合唱隊が後半を繰り返します。続いて四重唱で第3〜4節を歌い、同様に後半を合唱が繰り返
します。さらに四重唱で第五〜6節、後半合唱による繰り返しがあり、「神の御前に立て(steht vor Gott)」でこ
の部分が終わります。

(5) トライアングルなどの打楽器が多用される、いわゆるトルコ風マーチに乗って、テノールのソロが歌い出しま
す。"Froh, wie seine Sonnen fliegen"からの4行です。もっとも、ここでは原詩の言葉を自由に入れ替えたり繰
り返したりしています。やがて、やがて演奏者全員による大合唱となり、大きな盛り上がりを見せます。

(6) 「抱き合え、百万の人々よ("Seid umschlungen, Millionen ! ")から始まる部分です。ここは、直前の部分と
は打って変わって荘厳な雰囲気が支配しています。やがてさらにテンポを落とし、星の彼方の創造主への思いが歌
われます。

(7) テンポがアレグロに上がります。歓喜の主題が再び現れ、第6部の主題と対位法的に結びつけられてフーガの
ように進行します。歌詞も、ソプラノとバスが"Freude,Schöner Götterfunken"、アルトとテノールが
"Seid umschlungen, Millionen !"を歌います。

(8) 弦楽器を主とする急速な動きに乗って、ソロが"Freude,Tochter aus Elysium"と歌い出し、四重唱で盛り上が
ります。やがてまたまたアダージョにテンポを落とし、レシタティーフ風になって終わります。

(9) ストリンジェンド(だんだん速く)の指示があり、まさしく突入という感じで、最終部分が始まります。ここ
で歌われるのは、"Seid umschlungen, Millionen ! "の部分ですが、終わりに近いところで詩の最初の部分も使わ
れます。そして合唱が終わると同時に、フルオーケストラによる超急速なテンポのコーダイになります。

5 その他
 4楽章の歌詞は、シラー(Friedrich Schller, 1759-1805)の「歓喜に寄す」("An der Freude",1875)による
ものですが、これまでに触れてきたとおり、ベートーヴェンは節の順序を変えたり、大胆に省略するなど、かなり
自由に使っています。また、4楽章で最初に歌い出すバス(バリトン)のレシタティ−フは、ベートーヴェン自身
によるものです。

6 付け足し
 ご承知のように、日本では年末になると全国各地でこの曲が演奏されます。その由来は諸説があり、私にはこう
いうわけだ、と断定できるだけの材料はありません。しかし、ともあれベートーヴェン好きにとっては、この現象
は歓迎すべきものと思っています。もちろん、これは日本だけの現象であって、諸外国にはこのような習慣はあり
ません。(ちなみに、年末にと言うよりはクリスマス・シーズンによく演奏されるのは、アメリカではチャイコフ
スキーのバレエ「くるみ割り人形」、ドイツではフンパーディンクのオペラ「ヘンゼルとグレーテル」だそうです。
まあ、子供たちのためのサービスという面が強いようです。)
 1990年の東西ドイツの統一の時の式典で、この曲が演奏されたのをテレビの中継で見ました。やはり「第9」
は祝祭的な音楽なんだな、とあらためて感じたものです。

 私が所有しているこの曲の録音は次の通りです。

	1 トスカニーニ/NBC交響楽団 (モノラル)
		1952年3月31〜4月1日ニューヨーク・カーネギーホール録音 RCA BVCC-38022

	2 ウィルヘルム・フルトヴェングラー/バイロイト祝祭管弦楽団
		1951年7月バイロイト祝祭劇場録音 EMI TOCE-6510

	3 フェレンツ・フリッチャイ/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
		1957〜58年録音 DG POCG-3073

	4 ジョージ・セル/クリーブランド管弦楽団
		1961年4月録音 SONY SRCR 9851

	5 マルケヴィッチ/ラムルー管弦楽団
		1961年録音 フィリップス PHCP-20411

	6 フリッツ・ライナー/シカゴ交響楽団
		1961年5月録音 RCA R32C-1002

	7 カール・ベーム/バイロイト祝祭管弦楽団
		1963年7月バイロイト祝祭劇場録音 パレット PAL-1(モノラル)

	8 カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
		1970年ウィーン録音 DG 427 196-2

	9 カルロ・マリア・ジュリーニ/ロンドン交響楽団
		1972年11月録音 EMI TOCE-1203

	10 ルドルフ・ケンペ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
		1973年4〜5月ミュンヘン録音 セラフィム TOCE-7105

	11 小澤征爾/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
		1974年2月ロンドン録音 フィリップス 17CD-5

	12 ベルナルト・ハイティンク/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
		1980年10月アムステルダム録音 フィリップス 30CD-90

	13 カール・ベーム/ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
		1980年11月ウィーン録音 DG 445 503-2

	14 クルト・マズア/ライプツィヒゲバントハウス管弦楽団
		1981年録音 シャルプラッテン ET4019/20 (LP)

	15 リスト編曲ピアノ版 シプリアン・カツァリス(pf)
		1983年4月ニューヨーク録音 テルデック WPCS-4757

	16 クラウディオ・アバド/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
		1986年5月ウィーン録音 DG F35G,20112

	17 サー・ゲオルク・ショルティ/シカゴ交響楽団
		1986〜87年シカゴ録音 ロンドン POCL-5011

	18 ベルナルト・ハイティンク/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団(全集版)
		1987年アムステルダム録音 フィリップス 420 229-2

	19 サー・ネヴィル・マリナー/アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
		1989年4月ロンドン録音 フィリップス PHCP-202

	20 ニコラウス・アルノンクール/ヨーロッパ室内管弦楽団
		1991年6月21日グラーツ録音(ライヴ) テルデック WPCS-5527

	21 朝比奈隆/大阪フィルハーモニー交響楽団
		1991年12月29日大阪フェスティバルホール録音 キャニオン PCCL-00201

	22 エリオット・ガーディナー/レヴォリュショーネル・エ・ロマンティーク・オーケストラ
		1992年10月ロンドン録音 ARCHIV 447 074-2

	23 コーリン・デイヴィス/ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
		1993年ドレスデン録音 フィリップス PHCP-20236

	24 ジュゼッペ・シノーポリ/ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
		1996年3月ドレスデン録音 DG POCG-10056

	25 アバド/ベルリン・フィル
		1996年ザルツブルク録音 SONY SK 62634

	26 デーヴィッド・ジンマン/チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団
		1998年12月チューリッヒ録音 BMG BVCE-38013

	27 ワグナー編曲ピアノ版 小川典子(pf)他
		1998年5月18,20日桶川市民ホール録音 BIS CD-950 DIGITAL

    28 小澤征爾/サイトウ・キネン・オーケストラ
        2002年9月5日、7日、9日 長野県松本文化会館ライヴ録音 フィリップス UCCP-9424

    29 サイモン・ラトル/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
        2002年4月29日、5月17日 ウィーン ムジーク・フェライン(ライヴ録音) EMI TOCE-55505

    30 ジョス・ファン・インマゼール/アニマ・エテルナ
        1999年5月 ベルギーのアントワープ録音 SONY SRCR 2462

 以上の他に、尾高忠明/東京フィルハーモニー交響楽団の練習用カラオケCDも持っています。
 14のカツァリスの弾いたリスト編曲のピアノ版は、物珍しさから買ったのですが、これが案外いけます。オー
ケストラレーションという言わば「飾り」(とばかりは言えませんが)を取り去ってもベートーヴェンの音楽は十
分以上に鑑賞できる、と思いました。また、27は、同じピアノ用編曲でも、ワグナーによるものですが、こちら
はピアノという楽器の特性をあまり考えていないような印象で、編曲としてはリストのものに軍配があがります。
ただ、この録音では、4楽章の声楽が入っています。
 いつのまにか30種類も買っていたわけですが、意識して集めたわけではありません。この中で私が最もよく聴
くのは、3のフェレンツ・フリッチャイ/ベルリン・フィル盤です。これは、録音が古く、さほど音質がよいわけで
はありませんが、若くして(48才)世を去ったフリッチャイの生命の輝きが溢れ出るような演奏で、特に三楽章
の美しさは絶品だと思います。そしてあのフィッシャー=ディスカウが歌った(多分)唯一の第9です。
 他には、すごみのあるフルトヴェングラー/バイロイト祝祭管弦楽団のものがすばらしいと思いますが、録音が
ちょっと、・・・。それでもお勧めではあります。特に、4楽章の冒頭から合唱主題が出てくる部分までのところ
の、言わば文学的ともいえる表現が素晴らしいと思います。1楽章から3楽章までの断片が現れ、それらが一つ一
つ否定される部分の説得力は圧倒的です。また、ケンペ/ミュンヘン・フィルの骨太の演奏も好きです。などと書
き続けていくと、全部にコメントを付さなければならなくなるので、この辺でやめておきます。



An der Freude

TOP
O Freude,nicht diese Töne! Sondern last angenehmere Anstimmen,und freudenvollere. Freude,Schöner Götterfunken Tochter aus Elysium, Wir betreten feuertrunken, Himmlische, dein Heiligtum. Deine Zauber binden wieder, Was die Mode streng geteilt; Alle Menschen werden Brüder, Wo dein sanfter Flügel weilt. Wem der grose Wurf gelungen Eines Freundes Freund zu sein Wer ein holdes Weib errungen, Mische seinen Jubel ein ! Ja, wer auch nur eine Seele Sein nennt auf dem Erdenrund ! Und wer's nie gekonnt,der stehle Weinend sich aus diesem Bund ! Freude trinken alle Wesen An den Brüsten der Natur; Alle Guten, alle Bösen Folgen ihrer Rosenspur. Küsse gab sie uns und Reben, Einen Freund,geprüft im Tod; Wollust ward dem Wurm gegeben, Und der Cherub steht vor Gott. Froh, wie seine Sonnen fliegen Durch des Himmels prächit'gen Plan, Laufet Brüder,eure Bahn, Freudig wie ein Held zum Siegen ! Seid umschlungen, Millionen ! Diesen Kus der ganzen Welt ! Brüder überm Sternenzelt Mus ein lieber Vater wohnen. Ihr stürzt nieder, Millionen ? Ahndest du den Schöpfer, Welt ? Such" ihn uberm Sternenzelt ! Über Sternen mus er wohnen.