ベートーヴェン ピアノ協奏曲第1番ハ長調 作品15


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 この曲の作曲は1798年と推定されていますが、詳しいことは明らかではありません。
「第1番」と名前が付いていますが、実際には「第2番」の方が早く作曲されて、出版の順
序が逆になったようです。いずれにしても、いわゆる「前期」の作品郡に属しますが、それ
らの中でも群を抜いた傑作であると思います。初演は1798年にプラハで行われました。
ピアノはベートーヴェン自身が弾いたそうです。
 1798年というと、後年ベートーヴェンが悩まされることになる耳の病気は、その兆候
が現れ始めた頃です。しかし、精神的に深刻な悩みをもたらすほどではなく、ベートーヴェ
ンがまだまだ人生に明るい希望を持っていた時期の作品です。まるで音と光がベートーヴェ
ンの周りを喜々として戯れているような感じさえ受けます。このころまでのベートーヴェン
は、まだモーツァルトやハイドンの音楽の強い影響下にあった、と言われます。確かにこの
曲にも、特にまるでモーツァルトのような響きが感じられる部分があります。しかし、1楽
章や3楽章の若々しく躍動感あふれる展開は、まぎれもなくベートーヴェンのものです。ま
た、2楽章のラルゴは、後年の数々の美しい緩徐楽章を連想させます。これほど若々しさを
感じさせる傑作は他にはないのではないかと思います。

<第1楽章>
 アレグロ・コン・ブリオ、ハ長調、4分の4拍子、協奏風ソナタ形式。構成はハイドンや
モーツァルトの作品と同様で、新しい試みはまったくと言ってよいほどありません。オーケ
ストラによる第1主題がまず提示され、それがピアノに受け継がれ、・・・といった感じで
す。しかし、そこから聴き取れるダイナミズムは、すでにベートーヴェンの世界といってよ
いと思います。後に第5番で、ベートーヴェンは「カデンツァ無用。そのまま進むべし」と
いうようなことを楽譜に書き、その変わりに冒頭にカデンツァ風のパッセージを置いたわけ
ですが、この第1番では型どおりにコーダの前にカデンツァがおかれています。作曲者自身
によるものも3つ(1つは未完)伝わっています。

<第2楽章>
 ラルゴ、変イ長調、2分の2拍子、3部形式。先にも触れましたが、後年のベートーヴェ
ンの緩徐楽章、特にピアの協奏曲第5番のものを予知させるようなすばらしいものです。た
だし、長すぎる、と言う意見もありますが。

<第3楽章>
 アレグロ・スケルツァンド、ハ長調、4分の2拍子。ロンド形式。若きベートーベンの颯
爽とした面影が感じられる楽章です。舞曲風の素朴なロンドですが、生き生きとして躍動感
にあふれ、聞いていて本当に楽しくなります。何度聞いても、もう一度聞き直したくなりま
す。


 大変に好きな曲である割に、所有している録音はたった1種類です。
    1 ハンス・シュミット=イッセルシュテット、(pf)ウィルヘルム・バックハウス
      ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 デッカ 433,891-2 1959年ウィーン録音

 本当は、もっと持っているつもりだったのですが、自分でも少々意外でした。