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1803年から1804年にかけて作曲されました。つまり交響曲第3番「英雄」と平行
して作られていたことになります。「ヴァルとシュタイン」と呼ばれるのは、ベートーヴェ
ンの後援者の一人であったフェルディナント・ヴァルトシュタイン伯爵に献呈されているか
らです。この曲は中期のピアノ作品の中では第23番「熱情」と双璧をなす傑作として知ら
れています。両方の曲ともいかにも「ベートーヴェンの夏」を感じさせる力感のある構成美
を持っています。
<第1楽章>
アレグロ・コン・ブリオ、ハ長調、4分の4拍子、ソナタ形式。
曲はハ長調の和音の連打で始まり、それに続いて現れる小さな断片のような音の上下する
動機(合計しても4小節)の組み合わせが第1主題です。旋律とも言えないような、音の連
なりですが、これからのダイナミックな展開を予感させるものです。第2主題はホ長調で、
柔らかく歌うような感じで、第1主題とは対照的です。第1楽章は、この二つの主題を素材
としてダイナミックに展開します。美しいメロディーとか、印象的なパッセージなどとはほ
とんど無縁で、ただ音による建造物が構築されていくのを楽しむ、といった趣があります。
<第2楽章>
アダージョ・モルト、ヘ長調、8分の6拍子。
非常に短く、第3楽章への導入部、という感じの楽章です。私は瞑想的な感じを受けるの
ですが、第3楽章ヘのつなぎとしては抜群の効果を持っている、と思います。実はこの楽章
は、本来の第2楽章とは異なっています。もともとの野茂は、もっと長いアンダンテでした
が、友人の忠告(「長すぎる」)で、現在のものに変更したそうです。結果的にはこの変更
は大成功だったと思います。なお、もとの第2楽章は、「アンダンテ・ファボリ」という独
立曲として残っています。
<第3楽章>
アレグレット・モデラート〜プレスティッシモ、ハ長調、4分の2拍子、ロンド形式。
第2楽章が霧が消えていくように終わると、初めはやや控えめに、やがて断固とした調子
で3楽章のロンド主題が現れます。この部分がまるで朝霧を払って朝日がさし込むように聞
こえる(かも知れない)ので、フランスでは「夜明け(aurore)」と呼ばれているそうです。
私が所有しているこの曲の録音は次の通りです。
1 ヴィルヘルム・バックハウス ロンドン POCL-3235
1959年ジュネーヴ録音
2 マウリツィオ・ポリーニ DG POCG-9475
1986年ミュンヘン録音
3 マウリツィオ・ポリーニ DG POCG-10060
1997年ウィーン録音
4 フリードリッヒ・グルダ ロンドン K30Y,1570
1957年録音
5 ルドルフ・ブーフビンダー テルデック WPCS-10478
1981年録音
6 フリードリッヒ・グルダ アマデオ 415249-2(輸入盤)
1968年録音
7 ウラジーミル・ホロヴィッツ RCA BVCC-77/78
1956年録音(自宅録音!)
以上のように、現在7種類の録音を所有していますが、お奨めはバックハウスなのですが、
これには恣意的な解釈が多い、という意見もあります。私が最初に聴いたものがこれなので、
後に色々なものを聴いても、バックハウスが個人的スタンダードになっているのかもしれま
せん。